Spotifyのインド市場ローカライズ 基本戦術化した価格戦略と軽量アプリ

Spotifyは一人あたりGDPに準拠した価格戦略、インドの通信とデバイスにマッチする軽量アプリの投入で、13億市場に定額制を布教しようとしている。

Spotifyのインド市場ローカライズ 基本戦術化した価格戦略と軽量アプリ

本記事はインドの驚異的なデジタル経済の成長とそのふるまいを記述した『【特集】デジタル・インディア 13億デジタル経済の熱狂』 の連載のひとつです。

【連載目次】

特集の序文はこちら

  1. インドのデジタル経済: 13億人が秘める異常な潜在性
  2. インディアスタック INDIA STACK:全国民のデジタル化を支える政府基盤API
  3. Aadhaar 世界最大のデジタルIDプログラム
  4. 政府主導の独自基盤「UPI」がゲームを変えた インドのモバイル決済
  5. Reliance Jioによるモバイルインターネット革命の経緯
  6. インドのスタートアップエコシステムの急成長と多様化
  7. 戦争再び インドの電子商取引
  8. SPOTIFYのインド市場ローカライズ 基本戦術化した価格戦略と軽量アプリ

今年の2月にSpotifyがインドに上陸した。世界で2番目に人口の多い国であるインドでモバイルインターネット接続者が驚異的な速度で上昇している。Reliance Jioが開始した価格破壊のせいで世界でもまれに見る安価なデータ通信量でインド人はインターネットを楽しんでいる。そして彼らの月間モバイルデータ消費量は各種調査でデジタル化先進国とされる韓国と同様の8〜8.5GBのレンジにある。音楽ストリーミングにとっても大きな機会が存在すると考えるのは当たり前だ。実際、グローバル企業と地場企業がSpotifyに先行してストリーミングサービスを提供していて、Spotifyは遅れた参入者である。

WhatsAppのようなコミュニケーションAppではなく、定額制エンターテインメントAppがインドへのローカライズに成功するかは、インドのモバイルインターネットのステージを推し量る格好の試験である。Spotifyはこう説明した。「Spotifyのインド版はインドの音楽ファンの個人的な好みに合わせて細かく調整されている」。

調整の一つは「多言語の音楽推薦」だ。多くのインド人は複数の現地言語を話すため、Spotifyの音楽推薦エンジンは、ヒンディー語、パンジャブ語、タミル語、テルグ語に調整できる。インドのユーザーは、好みの言語を選択して、カスタマイズされたデイリーミックス、ホーム、ラジオ、検索結果および推奨事項を受け取ることができる。

それから多言語の楽曲の確保である。インドの音楽専門家チームが巧みにキュレーションし、定期的に更新する新しいプレイリストには、インディスタン、ラップ91、ナマステラブ、パンジャビ101、ボリウッドバター等のヒンディー語、タミル語、テルグ語、パンジャブ語のトップヒットが含まれている。

また映画俳優の楽曲も重要だ。インドのポップカルチャーでは、映画と音楽がとても近い距離にある。インド映画に印象的なミュージカルシーンが多数挿入されるのが通常であり、ときには踊りっぱなしの映画もある。Spotifyはこれを踏まえて最も人気のあるボリウッド、トリーウッド(テルグ語映画)、コリーウッド(タミル語映画)、およびパンジャブ語の俳優からの最高の音楽をフィーチャーした一連のプレイリストを用意した。

ニールセンによると、インドで消費される音楽のトップジャンルはボリウッドで、「その他のインド映画音楽」、インドポップ、地方ソングがそれに続きます。 Spotifyの売りである洋ポップは5位に留まる。

価格戦略

Spotifyはインドでの発売から1週間以内に100万人のユーザーを獲得したと発表した。大半が無料ユーザーだとみられている。

Spotifyがインドに合わせた価格戦略をとった。米国では、Spotifyサブスクリプションにより毎月9.99ドルを請求するが、インドでは月額サブスクリプションの費用はたった1.7ドルで、米国の価格より80%以上安い。1.7ドルの請求を可能にしているのが、Paytmのようなデジタルウォレットである。

ミュージックビジネスワールドワイドによると、Spotifyは、各国の国民1人あたりの国内総生産(GDP per Capita)を基準として、ユーザーが負担できる金額を算定しているという。

デロイトとインド音楽産業団体IMIが今年初めに発表した報告書によると、インドの総人口は13.4億人ですが、音楽ストリーミングサービスに加入しているのは約1億5,000万人(約11%)に留まる。 この1億5,000万人のうち購読料を支払うのは1%未満であり、約14%がバンドルされた購読(Amazon Primeなど、またはモバイル通信契約を通じて)をしている。 残りの85%は、無料のサブスクリプションで音楽をストリーミングする。そのため、100万人は多数ですが、Spotifyのユーザーはインドの音楽ストリーミング人口の1%未満に過ぎない。

インド人の多数派はYoutubeを音楽プレイヤーとして利用している。なぜならそれが無料だからである。しかもモバイルデータ通信料自体はかなり安い水準にあるため、一部のユーザーには動画でデータを消費することにはそこまで抵抗がない。

また著作権を侵害する形の音楽ダウンロードがインドでは依然として主流であるといわれる。Spotifyが成功した欧米諸国でも当初ユーザーはP2P共有などで音楽を無料で手に入れていた。ユーザーは次第に時間を使って無料ダウンロードするよりも、ストリーミングに定額を払って利便性を獲得することに納得するようになり「民族大移動」が起きたといわれる。このシナリオが起きるためにはインドユーザーの所得と価格設定がうまくかみ合うのを待たないといけないだろう。

Liteアプリを投入

Spotifyにとって好ましいことは、インドにはiPhoneは「ほぼ存在しない」ことだ。市場のほとんどはアンドロイドのもの。アンドロイドのシェアを喰っているKaiOSのユーザーは基本的に定額制Appにお金を払う所得水準に到達していない。

iPhoneはSpotifyにとって苦々しいライバルの「Apple Music」をバンドルする携帯電話であり、北米では登録者数でApple Musicに逆転されている。欧州ではライバル関係が訴訟に発展している。Spotifyは「AppleはApple Musicに対抗する競合他社のサービスを不当に規制している」として、反トラスト法(独占禁止法)違反で欧州委員会に提訴した。Spotifyがやり玉に挙げたのはアプリベンダーに対する「Apple税」と自社アプリに有利に変更されるApp Storeのポリシーだった。そのiPhoneがインドには存在しないのである。

Spotifyは6月、アンドロイド向けのLite(軽量版)Appをインドで公開した。Appはパッチが多いインターネット接続や弱いインターネット接続で動作するように設計されており、アップサイズはわずか10MBで、ストレージが限られているローエンドデバイスに対応するのに十分な小ささだ。 データプランを使い切るのが心配な人のために、アプリにはデータ消費制限モードがあり、ユーザーが設定した上限に到達する時期を知らせる。

spotify-lite

Spotifyは、メインアプリの機能の90%がLiteで利用可能であり、特にビデオやカバーアーティストを含むマルチメディア周辺の領域は、コアエクスペリエンスにとって重要ではないため省略されている、と説明している

LiteアプリはFacebook、Messenger、YouTubeなどのサービスで人気を博しており、特にデータ速度が一貫しておらず、ローエンドデバイスが普及しているインドのような新興市場で需要が高まっているのだ。

Spotifyは現在、全世界で2億1700万人のユーザーを主張しており、そのうち1億人は顧客を支払っている。追随するApple Musicは6月に6000万人のユーザーを確保している。

今年の2月にSpotifyがインドに上陸した。世界で2番目に人口の多い国であるインドでモバイルインターネット接続者が驚異的な速度で上昇している。Reliance Jioが開始した価格破壊のせいで世界でもまれに見る安価なデータ通信量でインド人はインターネットを楽しんでいる。そして彼らの月間モバイルデータ消費量は各種調査でデジタル化先進国とされる韓国と同様の8〜8.5GBのレンジにある。音楽ストリーミングにとっても大きな機会が存在すると考えるのは当たり前だ。実際、グローバル企業と地場企業がSpotifyに先行してストリーミングサービスを提供していて、Spotifyは遅れた参入者である。

WhatsAppのようなコミュニケーションAppではなく、定額制エンターテインメントAppがインドへのローカライズに成功するかは、インドのモバイルインターネットのステージを推し量る格好の試験である。Spotifyはこう説明した。「Spotifyのインド版はインドの音楽ファンの個人的な好みに合わせて細かく調整されている」。

調整の一つは「多言語の音楽推薦」だ。多くのインド人は複数の現地言語を話すため、Spotifyの音楽推薦エンジンは、ヒンディー語、パンジャブ語、タミル語、テルグ語に調整できる。インドのユーザーは、好みの言語を選択して、カスタマイズされたデイリーミックス、ホーム、ラジオ、検索結果および推奨事項を受け取ることができる。

それから多言語の楽曲の確保である。インドの音楽専門家チームが巧みにキュレーションし、定期的に更新する新しいプレイリストには、インディスタン、ラップ91、ナマステラブ、パンジャビ101、ボリウッドバター等のヒンディー語、タミル語、テルグ語、パンジャブ語のトップヒットが含まれている。

また映画俳優の楽曲も重要だ。インドのポップカルチャーでは、映画と音楽がとても近い距離にある。インド映画に印象的なミュージカルシーンが多数挿入されるのが通常であり、ときには踊りっぱなしの映画もある。Spotifyはこれを踏まえて最も人気のあるボリウッド、トリーウッド(テルグ語映画)、コリーウッド(タミル語映画)、およびパンジャブ語の俳優からの最高の音楽をフィーチャーした一連のプレイリストを用意した。

ニールセンによると、インドで消費される音楽のトップジャンルはボリウッドで、「その他のインド映画音楽」、インドポップ、地方ソングがそれに続きます。 Spotifyの売りである洋ポップは5位に留まる。

価格戦略

Spotifyはインドでの発売から1週間以内に100万人のユーザーを獲得したと発表した。大半が無料ユーザーだとみられている。

Spotifyがインドに合わせた価格戦略をとった。米国では、Spotifyサブスクリプションにより毎月9.99ドルを請求するが、インドでは月額サブスクリプションの費用はたった1.7ドルで、米国の価格より80%以上安い。1.7ドルの請求を可能にしているのが、Paytmのようなデジタルウォレットである。

ミュージックビジネスワールドワイドによると、Spotifyは、各国の国民1人あたりの国内総生産(GDP per Capita)を基準として、ユーザーが負担できる金額を算定しているという。

デロイトとインド音楽産業団体IMIが今年初めに発表した報告書によると、インドの総人口は13.4億人ですが、音楽ストリーミングサービスに加入しているのは約1億5,000万人(約11%)に留まる。 この1億5,000万人のうち購読料を支払うのは1%未満であり、約14%がバンドルされた購読(Amazon Primeなど、またはモバイル通信契約を通じて)をしている。 残りの85%は、無料のサブスクリプションで音楽をストリーミングする。そのため、100万人は多数ですが、Spotifyのユーザーはインドの音楽ストリーミング人口の1%未満に過ぎない。

インド人の多数派はYoutubeを音楽プレイヤーとして利用している。なぜならそれが無料だからである。しかもモバイルデータ通信料自体はかなり安い水準にあるため、一部のユーザーには動画でデータを消費することにはそこまで抵抗がない。

また著作権を侵害する形の音楽ダウンロードがインドでは依然として主流であるといわれる。Spotifyが成功した欧米諸国でも当初ユーザーはP2P共有などで音楽を無料で手に入れていた。ユーザーは次第に時間を使って無料ダウンロードするよりも、ストリーミングに定額を払って利便性を獲得することに納得するようになり「民族大移動」が起きたといわれる。このシナリオが起きるためにはインドユーザーの所得と価格設定がうまくかみ合うのを待たないといけないだろう。

Liteアプリを投入

Spotifyにとって好ましいことは、インドにはiPhoneは「ほぼ存在しない」ことだ。市場のほとんどはアンドロイドのもの。アンドロイドのシェアを喰っているKaiOSのユーザーは基本的に定額制Appにお金を払う所得水準に到達していない。

iPhoneはSpotifyにとって苦々しいライバルの「Apple Music」をバンドルする携帯電話であり、北米では登録者数でApple Musicに逆転されている。欧州ではライバル関係が訴訟に発展している。Spotifyは「AppleはApple Musicに対抗する競合他社のサービスを不当に規制している」として、反トラスト法(独占禁止法)違反で欧州委員会に提訴した。Spotifyがやり玉に挙げたのはアプリベンダーに対する「Apple税」と自社アプリに有利に変更されるApp Storeのポリシーだった。そのiPhoneがインドには存在しないのである。

Spotifyは6月、アンドロイド向けのLite(軽量版)Appをインドで公開した。Appはパッチが多いインターネット接続や弱いインターネット接続で動作するように設計されており、アップサイズはわずか10MBで、ストレージが限られているローエンドデバイスに対応するのに十分な小ささだ。 データプランを使い切るのが心配な人のために、アプリにはデータ消費制限モードがあり、ユーザーが設定した上限に到達する時期を知らせる。

spotify-lite

Spotifyは、メインアプリの機能の90%がLiteで利用可能であり、特にビデオやカバーアーティストを含むマルチメディア周辺の領域は、コアエクスペリエンスにとって重要ではないため省略されている、と説明している

LiteアプリはFacebook、Messenger、YouTubeなどのサービスで人気を博しており、特にデータ速度が一貫しておらず、ローエンドデバイスが普及しているインドのような新興市場で需要が高まっているのだ。

利用者は増えるが収益はそうではない

Spotifyは「ゲーム」乗り遅れているだろうか。Apple Music、Amazon、Google Playなどとの激しい競争に直面しているほか、JioSaavnやGaanaなどのローカルサービスは約8000万人のユーザーを囲い込んでいる。

インドは音楽の「眠れる獅子」と見なされており、世界第2位のスマートフォン市場とデータレートの低下により、毎月数百万人がオンラインサービスに登録しています。 GaanaのCEOであるPrashan Agarwalは最近、業界が今後2〜3年以内にほぼ4億人の利用者をもつまでに成長すると予想していると Quartz に語った。ただしこれは、収益の急増と結びつくとは考えられません。定額制ビジネスとインドの潜在性の間に存在するギャップはとても大きいため、プレイヤーは副次的な収益源でしのぎながら、大きな波を待つことになるだろう。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史