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要点

日本のQRコード決済の持続可能性が薄い。経産省のポイント還元制度が6月末の終了を控え、日本のビジネスコミュニティは次のトレンドを探すことになるだろう。非接触型とデジタルウォレットの組み合わせが現状のベストプラクティスだが、中央銀行デジタル通貨(CBDC)と「リブラ」のようなステーブルコインがゲームチェンジャーになる可能性がある。

持続可能性が薄い「キャッシュレス」

総務省が5日に開示したQRコード決済の加盟店手数料一覧では、決済事業者は無料期間が終了した後、1.5%〜3.25%の加盟店手数料を課すことが明記された。中小小売店には許容不可能であり、店舗から撤収する流れが生まれている。経済産業省がキャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会を開催したが、打開策の片鱗はみえない。

4月24日のニュースレターで説明した制度的な持続可能性の欠如を修復する見込みはない。高い税を課せられた決済事業者は、その税を利用者に転嫁することになる。加盟店手数料以外にも、売上入金サイクルが長いことなど、いくつかの課題が存在する。

次のゲームが模索されている。DeCurret(ディーカレット)がデジタル通貨でのデジタル決済インフラの実現を目指すための勉強会を開催。三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンクのほか、KDDIやセブン銀行、NTTグループ、JR東日本なども参加した。勉強会はステークホルダーの間でサービスやインフラの標準化の方向性を示すことを目的とする。

アリペイの成功のおさらい

もう一度振り出しに戻ってみよう。支付宝(アリペイ)の何を真似すべきだったのか。アリペイはペイパルのようなデジタルウォレットとして誕生した。アリババのタオバオ(淘宝網)での個人間取引は不確実性があったが、アリペイはエスクロー(仲介保証)を提供し、利用者のリスクをなくした。これがアリババの電子商取引ビジネスに画期的な相乗効果をもたらした。

eコマースにとどまらず、このデジタルウォレットを通じて、電気水道料金、個人間送金が可能になった。

さらにアリババの金融関連会社アントフィナンシャルは、アリペイの機能を送金から店頭での支払いに拡張するためにQRコードを採用した。これが爆発的に普及し、なかには現金を拒む店舗もあるほどだ。

アリペイは、利用者に様々な金融商品へのアクセスを可能にし、デジタル銀行の地位を確かにした。一時は世界最大規模に達したマネー・マーケット・ファンド(MMF)の余額宝のような投資信託のほか、衆安保険の電子商取引にまつわるマイクロ損害保険などが利用できる。

さらに米国のクレジットスコアを解釈する中で、アリペイは芝麻信用を生み出した。個人の様々な行動履歴に基づいた信用スコアは、金融の領域にとどまらずシェアリングエコノミーなどの新たな経済を支えるインフラである。

また、競合であるWeChat Payの支払い機能はアジアのトレンドである「スーパーアプリ」(SuperApp)のための要所だ。メッセージング、ソーシャルに紐付いた送金(有名なのがお年玉)だけでなく、同社がアプリ上で許容するミニプログラムでの支払いも助けることで、様々な消費者行動がWeChatのなかに集約された。

近年の日本の「キャッシュレス」はこのシナリオを日本流に活用することを目論んだものだ。実際、中国のモデルは、東南アジアインドに移植されており、東南アジアのスーパーアプリであるGojek、そのデジタル支払いアプリであるGoPayのような製品が登場した。ウーバーFacebookも模倣しようとしている。FacebookのLibara(リブラ)は米国の規制の中で、アプリに支払い機能をもたらすためのアクロバティックな試みなのだ。

さて、道半ばの日本のデジタル決済が、来月以降、どこに向かうのか。

決済システム単体では儲からない

デジタル決済自体で儲けるモデルはもはや新しくない。たとえば、中国のアリペイやテンセントは手数料を低く押さえており、巨大なエコシステムのなかで収支を合わせている。より発展途上のインドは、金融包摂のためのデジタルペイメントを指向した。インド政府は、一定の金額以下の決済については手数料を無料にすることを規定し、同時にペイメントアプリの要所の一つである銀行間決済システムについては、政府自らUPIと呼ばれる製品の開発とその運営を担った。その結果、非常に安価な支払いが実現し、デジタルアイデンティや簡易口座、高額紙幣の廃止などがもたらされた。

日本の現状は愉しいものではない。JPQR(日本のQRコード標準)の参加予定企業が高い手数料を取っていては、"お高い決済手段"がひとつ増えただけで、政府の金で支援してきた意味がない。

そもそもの設計に難があった。政策立案者はキャッシュレスという言葉につられ、現金取引を減らすことだけに注力したが、ペイ系は全銀システムやCafisに重税を課せられ、姿焼きとなった。日本株式会社のステークホルダーの間で調整が効かなかった。政策立案者は十分な情報と知見を設計する前に持っていなかったのかもしれない。

スーパーアプリは本当に救世主か?

まだ生き残るすべはある。QRコードが不採算となっても、そこを起点としたエコシステムで稼げればいい。スーパーアプリが成立する条件は、中国、東南アジア等での状況を勘案すると、3つある、と私は推定する。

  1. 新興国のモバイルインターネット。スーパーアプリの適用が進む中国、東南アジア、インドでは、モバイルのみでインターネット体験を完結させるユーザーが多数を占め、モバイル以外でのネット経験のない人も含まれる。ユーザーのデジタル行動の大半がモバイルに集約される傾向がある。
  2. 検索の存在感の弱さ。スーパーアプリの原型が生まれた中国では、百度(Baidu)はBATの一角からこぼれ落ち、西側のGoogleほどの検索のプレゼンスがない。検索はインターネットサービス群のゲートウェイになっているが、検索が弱ければ、スーパーアプリがその座を取れる。
  3. アプリストアの支配力の弱さ。中国のAndroidの大半は、Googleが断片化と呼び、問題視するものである。中華スマホにはアプリストアをバイパスする別個のアプリストアがプリインストールされている。Appleのポリシーも中国では、他の欧米諸国や日本でみられるような支配力を示さない。WeChatのなかの約6万のミニプログラムの中でのトランザクションについて、Appleは「アプリ内購入」とみなし、相応の手数料を収めることをテンセントに要求し続けてきたが、Appleが満足行く結果は得られたことはない。

日本は、この3つの条件をまったく満たしていないように見える。日本のインターネットユーザーは、上記の新興国と比べ、私的な時間でもデスクトップを利用する傾向がある。検索はインターネットの重要な地位を占めており、アプリ内購入の支払いでもめたときには、Appleは訴訟をすれば勝訴できる可能性は十分にある。

非接触型が現時点でのベストプラクティス

日本の場合は、アリペイのようなデジタルウォレットはあまり普及せず、むしろ、電車、コンビニエンスストア、スーパーマーケットの利用者の間で非接触型の利用が見られる。非接触型は、広域の送金への拡大が難しいという難点があるが、SUICAはすでにこの課題を解決している。「モバイルSUICA」、あるいは、Google Pay、楽天Pay、Apple Payとの統合で、店頭での支払いとデジタルウォレットの両方の機能を満たしている(モバイルSUICAの送金は使い勝手が悪い印象だが)。

ただし、これらのオンライン支払いはクレジットカードのネットワークに依存している。クレジットカードの取引は数社の金融機関を介在しており、中間者のコストが高く、効率的な支払い手段と呼ぶことが難しい。これが最終的な答えではない。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がゲームチェンジャー

長期的には中央銀行デジタル通貨(CBDC)は強烈なゲームチェンジャーになりうる。中央銀行券が暗号通貨になり、暗号通貨ウォレットが普及すれば、非常に安価でシームレスな支払いが可能だ。ビットコインなどがこだわる非中央集権の仕組みを緩和すれば、スループット(単位時間当たりの処理能力)は向上する。中央銀行は金融政策の知見を継続して活用することができる。

Facebookが開発を進めるLibra(リブラ)もまた非常に興味深い存在だ。リブラは仮想通貨特有の法定通貨に対するボラティリティを押さえたステーブルコインに類する。リブラは、最新のバージョンでは、規制当局や既存金融機関の反発を踏まえ、単一通貨のステーブルコインを4種作り、それらのバスケットにバックされたステーブルコインとしてリブラコイン(≋LBR)を再発明している。

Facebookがグローバル通貨の実質的な発行体となることには侃々諤々の議論がされているが、「デジタル通貨への挑戦」としては有意義であり、世界各国がCBDCを検討する刺激になったは間違いがない。リブラのようなグローバルなステーブルコインもまた、世界中の支払いだけでなく、金融をまるごとを一変させてしまう可能性がある。

まずデジタルペイメントを無料に近づけよう

日本が現段階で実行すべきは、どれだけデジタルペイメントを無料に近づけられるかだ。それによりオンライン消費が成長し、デジタルメディア/デジタルエンターテイメントから得られる消費者余剰も拡大し、人々の効用が増進する。この弊メディア「Axion」が題材とするデジタルエコノミーの繁栄のためには、極限まで安価な支払いは必要不可欠な要素だ。

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