Amazonがインドでスーパーアプリに挑戦
Amazonはインドでスーパーアプリ戦略を実行しています。食品配達、決済、旅行、映画のチケット予約などをバンドルしています。他のアジアで存在感を持たないAmazonにとってインドは負けられない市場です。
Amazonは2月、インドのフードテクノロジー市場でパイの一部を手に入れるために、バンガロールのハイテク企業の従業員向けのフードデリバリー(食品配達)のパイロット版を開始しました。
Amazonの食品配達市場への進出は、Prosus Venturesが支援するSwiggyと、1月に約1億8,000万ドルでインドのUber Eats事業を買収した創業10年の新興企業Zomatoに新たな挑戦をもたらすでしょう。20億ドル以上の資金を集めた新興企業はどちらもまだ利益を上げておらず、新しい顧客を獲得し、既存の顧客を維持するために毎月1500万ドル以上を失っています。
このブログで指摘した通り、中国と米国では、食品配達は利益を生み出しづらいビジネスだということが、共通認識になっています(ポッドキャストはこちらから)。美団点評は120億ドルの純損失を計上し、ドアダッシュは数十億ドルの純損失を計上していると推測されています。Amazonはこの事業に対しどのような洞察をもっているのか、興味はつきません。
食品配達はAmazonの「スーパーアプリ戦略」の氷山の一角に過ぎません。Amazon Indiaでは、eコマース、食料品配達、食品配達、支払い、クレジットカード、旅行、映画のチケット予約、保険、教育、電子書籍、オンデマンドビデオで利用できるようになりました。音楽ストリーミング、クラウドコンピューティングなどの利用者は、世界で2番目に多い国です。
Amazonは、インド決済公社(NPCI)が提供する銀行間送金システムUPIを活用したAmazon Payを市場投入しており、インド初のスーパーアプリになることを目指しており、ソフトバンクが支援するPaytmやWalmartが所有するPhonePeなどの決済サービスと対決姿勢を強めている、というものです。 ただし、よく見ると、すべてのAmazonサービスがひとつにバンドルされているわけではありません。これは、スーパーアプリの基本原則に反します。
食料品配達Prime Now、サブスクリプションビデオオンデマンドアプリPrime Video、音楽ストリーミングアプリAmazon Musicの他に、教育アプリJEE Readyがあります。JEE Readyは、インド最高学府のひとつ、インド工科大学の入学試験の準備をしている学生向けに昨年開始されています。
カナダの投資銀行RBCキャピタルマーケッツのアナリストノートによると、インドは2023年までにAmazonの最大の国際市場の1つとして台頭し、320億米ドルの総売上を生み出し、世界のeリテーラーの4%を占めると予測されています。
Amazonが、アリババが支援する地場新興企業にことごとく敗れ、アジアの他の場所で重要な存在感を確立できなかったことを考えると、インドはAmazonにとって重要な市場になっています。 アマゾンが6年前の市場参入以来、インドに65億米ドル以上を注ぎ込んだのは驚くことではありません。調査会社Citi Researchは、2018年5月時点でAmazonのインド事業を160億ドルの企業価値があると算定しており、現在はもっと価値を増しているのは確かです。
東南アジアでは、Amazonはシンガポールとベトナムにのみ存在します。昨年半ばに、インドネシアのスーパーアプリGojekと株式を取得するための協議が行われましたが、その後交渉は破談になりました。 一方、昨年7月にマーケットプレイスを閉鎖した中国では、現在海外商品とクラウドサービスを販売しています。
Amazonが2013年に主要な提案であるeコマース市場でインド市場に参入したとき、アマゾンは国内のオンライン小売業者であるFlipkartとSnapdealの競争相手になりました。FlipkartとSnapdealは調達した資金を商品の値下げに投入したが、それが悪意の卸売業者がその値下げ分を吸い取るスキームを考案し、2社は資金を無駄にしました。その間、Amazonは主に物流に投資したため、地場の2社に対し差を就けることができたのです。
2016年後半にAmazon Prime Videoを国内に持ち込み、世界的なストリーミング大手Netflixとの競争を始めました。その後数年間で、Amazon Payを開始し、請求書の支払いや旅行予約などに手を広げ、PaytmやPhonePeなどに対抗しました。最近、同社は現在のBigBasketとGrofers、そしてライバルのFlipkartの食料品配達ベンチャーSupermartに対抗するために資金を投入しています。
電子商取引市場の成長はまだ始まったばかりです。Bain&Company, Google India, Omidayar Networkの報告書(2018年8月)によると、オンライン購入者1人あたり平均オンライン支出は他の市場よりもはるかに低い224ドル(米国の10分の1程度)。オンラインコマースが初期段階にあることは、各カテゴリをまたいだ普及率の低下からも明らか、ということです。報告書は、デジタル取引の利用は男性、若年層、都市居住者に偏っていると指摘しています(つまり、女性、中年以上、中小都市居住者に潜在性があります)。
欧米企業がアジア勢を追いかけてスーパーアプリ化を図るのは珍しくありません。Facebook、ウーバーもスーパーアプリ戦略を採用しているのです。
参考文献
- Bain&Company, Google India, Omidayar Network. Unlocking Digital for Bharat opportunity - Omidyar Networkwww. Aug, 2018.
- BCG, Google, Nielsen, "Digital Consumer Spending in India: A $100B Opportunity". Feb, 2018.
- The Economist "Growth at Indian internet consumer firms has stalled"
- 吉田拓史. AMAZONとフリップカートが資金を燃焼する消耗戦を再開 インドのEコマース市場
- KPMG ”E-commerce retail logistics in India - Driving the change”. 2018.
関連連載
インドの驚異的なデジタル経済の成長とそのふるまいを記述した『【特集】デジタル・インディア 13億デジタル経済の熱狂』 *の連載はこちらのリンクから。
【連載目次】
特集の序文はこちら。
- インドのデジタル経済: 13億人が秘める異常な潜在性
- インディアスタック INDIA STACK:全国民のデジタル化を支える政府基盤API
- Aadhaar 世界最大のデジタルIDプログラム
- 政府主導の独自基盤「UPI」がゲームを変えた インドのモバイル決済
- Reliance Jioによるモバイルインターネット革命の経緯
- インドのスタートアップエコシステムの急成長と多様化
- 戦争再び インドの電子商取引
- SPOTIFYのインド市場ローカライズ 基本戦術化した価格戦略と軽量アプリ
Photo by Amazon Press Room